ぴょん記

こつこつ憶える

だからわたしはテキストサイトがすき

  鳥飼茜『先生の白い嘘』の主要登場人物のひとりに、「早藤」という男がいる。主人公の高校時代からの「親友」の婚約者で、合コンを行っているその店の女性用トイレで初対面の女性を強姦した男性だ。その犯歴は遅くとも現在25歳である主人公の大学生時代に始まり、当時から交際していた「親友」の新居で、主人公を強姦している。ところで、早藤は逮捕起訴されるどころか、合コンの彼女とも、主人公とも、継続して性的関係をもっている。その慣れた態度は、彼の犯行がこの2件だけどころではないことを読者に推測させる。

 警察や親、友人、お前を取り巻く「社会」というものに対して、わたしはこの男に犯されました、と言えるものなら言ってみろという開き直りと、お前が従順に快楽を提供するかぎりは俺の気の向くときに会ってやるというつれないそぶりと多少のやさしい仕草で、早藤は、自分が襲った女たちをいとも容易く繋ぎ止める。その一方で、これはたぶん彼の本心の一部なのだと思うが、なぜ、女たちは、自分を含めて男というものに、どんなにひどいことをされても追い縋るのか、追わなくていいのに、むしろ追いかけてくれないほうがいいのに、という思いを抱いている。彼とて、人の子。己の所業の悪が、いずれわが身に返ってくることへの漠然とした怖れはある。そして、その悪のすべてが、自分の存在に由来することについては実は納得していない。最初はたしかに泣いて厭がったけど、2回目からは、ほいほい呼出しに応じて出てきたじゃないか、と思う。

先生の白い嘘(5) (モーニングコミックス)

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 奇妙なことに、「早藤」のコピーは、わたしの中にもある。やわらかいことばを用いて、丁寧に人に接するけれども、それは前職に就いている間に培った職業上の技術であって、実のところ、ひとの感情の薄片をすいっと削いで陽に透かしてあらきれいと陶然とすることがある。惨めさのあまりひとが落とす涙は好物ではないけれど、思惟の木々が形成する森の遷移は、ゆっくりたどっていけば思いがけない拾いものに出会うこともあるからいい。そういう意味で、早藤と同じく、わたしも人を喰いものにして怖じない恥知らずで(でも多少は怯えを抱いている?)、そもそも最初にどうぞ見てくれといったのはお前じゃないかとふんぞり返っているのじゃろうなあ。

 だからわたしはテキストサイトがすき。虚実皮膜もよろしかろう。