ぴょん記

こつこつ憶える

千歳の坂も超えぬべらなり

 小川一水の短編集「フリーランチの時代」所収の『千歳の坂も』。健康が奨励され、不死が技術的に達成された近未来、国策として不死術を受けることを強制されたのを拒んで逃亡した女と、彼女を追跡する公務員の男の数百年に及ぶ物語で、結末近く、ふたりの最後の邂逅のシーンなど、ほんとうに美しい。

 

フリーランチの時代

フリーランチの時代

 

 僧正遍昭古今集「ちはやぶる神やきりけむつくからに千歳の坂も越えぬべらなり」。光孝天皇が祖母か叔母かとにかく親族の女性の八十の賀に銀の杖を贈った折に、その女性に代わって喜びを述べた歌だという。 

 もし、SF『千歳の坂も』が、国家的強制によって命を縮める話だとしたら、女がひとりぐらしをする家にある日、公務員が訪ねてきて、と、そこからの物語の広がりは乏しい。機械的に延命処置を受けさせようとして、地の果てはおろかやがて他の星系までも女を捜し続ける公務員であるところの男の単体としての人生を超えた営為は、どうにもこうにもこの女に永遠の命を授けるという目的意識のもとに継続される。

 この死ぬに死ねないSFを、一種のディストピア小説としてわたしは受け取ったけど。