ぴょん記

きょうからしばらく雨降る日々

共感と裏切りと

 2日掛けて『雲霧仁左衛門』の下巻のKindle版を読んでいた。下巻は、雲霧一党が江戸の東本願寺近くの菓子舗へ侵入しようとして果たせず、仁左衛門の実兄が身代わりとして処刑されたところで終わっている。だから、ドラマのシーズン2の最後で示された藤堂藩への復讐は実現していない。

 池波正太郎は、一方で盗賊である雲霧や小頭らを畏敬のこもった筆でもって描写しながら、他方で同心や密偵、小者に至るまで火盗改方の人々の細やかな心の動きを逃さず記している。それぞれの側にいる者たちが置かれた立場で最善を尽くすことを天からの目ではなく、それこそ彼らひとりひとりの影身に添う登場人物であるかのように近くから眺めている。その憐れみは、雲霧の手先となって無惨な最期を迎えた与力の岡田にさえ分かたれている。