ぴょん記

きょうからしばらく雨降る日々

和泉かねよし『女王の花』第15巻

旧題「時を超えて迎えにくる者」。和泉かねよし『女王の花』最終巻の感想文として。

 宿敵・土妃との最終決戦が終わる日の未明、亜姫は、自分の安全を確保するために敵兵に囲まれ、単独、不自由な身体で応戦する薄星の姿を見守る。王という唯一無二の立場を埋める者は、その国の大小にかかわらず、おのれを空しくせねば統治の責を果たせないという命題に、この「少女まんが」は正面から向き合い続けてきた。この少女は、血の繋がった亜王から突き放され、質子として遣わされた母の祖国でもその父である黄王にはじめは疎々しく扱われる。王族という生まれのよさしかもたない不安定な立場の、しかも女子である亜姫のそばには西方から売られてきた奴隷の薄星しかいなかった。母の仇であり、師父青徹、また、父王をも屠った土妃を斃して亜国の王になるという大願の前に、亜姫はこの上なく恋しいけれど身分は奴隷である薄星を身辺から遠ざけざるを得ない。人間の一生の何十年かという時間、それが瞬く間のように短いか、それとも永遠に等しいほど長いのかはともかく、物語の終わりに、亜姫、いや、亜王は、「千年の花」の祈りによって、薄星とともに新たな旅に出る。まるで大英帝国の王妃という人の世での務めを果たして、彼女を迎えにきた「由」とともに遠い遠い宙へと還っていった「晶」のように、その寝台にはなにも残らなかった。

 

女王の花 15 (フラワーコミックス)

女王の花 15 (フラワーコミックス)

 

 

 

※ 第15巻のKindle版の発売日は4月7日のようです。