『朗読者』のベルンハルト・シュリンクの新刊『階段を下りる女』が出るというので、その前に邦訳が2011年に出された『週末』を読んだ。訳はいつもの早稲田大学の松永美穂先生で読みやすい。
1944年生まれで68年世代のひとりとされているシュリンクは、小説家としてのデビューより以前、長らく法律家、大学教師としての職業生活を営んでいる。旧西ドイツの赤軍派とほぼ年代を同じくする彼が『週末』で描くのは、テロ行為によって4人を殺害し、23年間の服役生活を恩赦によって終えて社会に戻ってきた初老の男と、かつての友人を含む知人たちとの三日間の共同生活だ。
ひどい暴力行為など直接的にはまったく描かれていなかったにもかかわらず、読んでいる間ずっと、「悪の凡庸さ」「平凡な人間がしでかした大罪」という語が頭のうしろのほうをぐるぐると回っていた。現在の時間の中でただひとつ介入してきたのはラジオの大統領演説だけというこの一種の室内劇は、静かに始まって静かに終わる。
- 作者: ベルンハルトシュリンク,Bernhard Schlink,松永美穂
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2011/06/01
- メディア: 単行本
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階段を下りる女 (Shinchosha CREST BOOKS)
- 作者: ベルンハルト・シュリンク,松永美穂
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