ぴょん記

きょうからしばらく雨降る日々

持斎慎まざればなり

 「持衰」ともいうらしいが、むかし、船の構造が旧式だったころ(なにしろ竜骨がなかったらしい。)、船が時化に遭って沈みそうなとき、かねてより船に乗せた持斎に責任を負わせ、「持斎慎まざれば海が荒れるのじゃ。」と波打つ水面にかれをたたき落としたものらしい。もし、船が無事に航海の目的を果たしたときには、持斎は褒美をたくさんもらって解放される。その持斎、髪を梳ることも身体を洗うことも禁じられていたらしいが、なにかを神に祈るときには斎戒沐浴する習慣からみるとむしろ逆ではないか。白縫ほどの美女ならともかく、髪も髭も伸び放題の男ひとり、捧げられてもわだつみはかえって困惑するのではなかろうか。

 考えかたによっては、顔と髪を洗ってきれいに整えるという義務を免除された数日を過ごす、ともいえるけれども、お勤めの人なんていったいどうしておいでなんでしょ。わたしは家でごそごそする居職ですから適当にしのぐつもり。

 手術した目の周りは、「アイ浄綿」という眼科専用の不織布で拭う。それ以外の顔は、メイク落とし用の不織布で拭いて、あとはコットンに染ませた化粧水。クリームは、この際、省略していいかな。

 髪の毛は、櫛で地肌を梳いて、シニョンにして首筋に垂れないようにまとめておく。日本の伝統的な女性の髪型のひとつであるおすべらかしでは、髪を固めるのに美男葛を使う。近代、かしこきあたりのご婚儀において、そのおすべらかしで臨んだ儀式ののち、洋式のドレスにて宝冠を戴く髪型に調えるために、高貴な女性の髪は、ベンジンでごしごしと洗われたそうな。幾ら布で目元を覆っていたといっても相当に沁みたことだろう。そこまではしなくてもいいとしても、とても痒くなったら、おとなしく前の理容室に出掛けてシャンプーだけしてもらうことにしよう。

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