ぴょん記

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『マージナル』

 萩尾望都の旧作をKindleで読んでいる。一度は雑誌で読んでいることが多いし、その後に単行本を購入して何回も読んでいるものさえある。『マージナル』は、遠い昔に人から借りて読んだ。Kindle化されたものは、1999年の小学館文庫を底本にしているようだが、オリジナルとそれほど違いはないだろう。

 物語の舞台は、西暦2999年の地球。汚染されて男しか生きられなくなった大地で、人々は「聖母と契る」という手続を経て、子を得る。親と子、念者と色子という繋がりを最小モジュールとして郊外と都市の社会は構成されているが、人は、せいぜい30歳までしか生きられない。その世界が聖母の暗殺、市長の老衰死で揺れているさなか、ある少年が「懐妊」したものだから、混乱は必至である。

 設定そのものは、山下和美『ランド』のように、ひとつの世界を俯瞰して管理するメタ世界が存在する話である。そして、全員がいつか死ぬ以上は、全員でなくても誰かは産まねばならないという理を説いているようにもみえる。だが、けっしてそれだけではない。

 

マージナル(1) (小学館文庫)

マージナル(1) (小学館文庫)

 
マージナル(2) (小学館文庫)

マージナル(2) (小学館文庫)

 
マージナル(3) (小学館文庫)

マージナル(3) (小学館文庫)

 

  結末近く、大水が出て主要人物たちを流したり溶かしたりしてしまう。その過程で、幾つかの小さな謎は解き明かされ、反目は解消される。『バルバラ異界』で北海道の研究所を水浸しにした萩尾望都は、水と感情の共有について深い親和性を見出しているのかもしれない。