昨日も青空文庫で読んでいた、山本周五郎『季節のない街』は、作家が市井に取材して、都会の中の幾つかの貧しい人たちの暮らしを写し取ったものだとあとがきにあった。
山の手と下町の区別にいう下町ではなく、不安定な仕事で稼いだ比較的少額の収入で生計を立てる人たちが住む、「街」。途中、「風流譚」という語が2つの場面で現れて、これは猥談のことなのだろうなとぼんやり考えた。風紀の紊乱はそこかしこにみられる。
必要に迫られて、隣近所から小皿に一盛りの塩や醤油を借りる、または、自分のうちに不足がないときにも、あえて相手に優越感を抱かせるために米や味噌を借りるという行いが繰り返される。虚栄、底がすぐ割れる嘘、そういうものにもときには見て見ぬふりをして遣り過ごす、貧民窟、あるいは、細民街の、敗戦直後から東京オリンピック開催前後までのばらばらな出来事が、この作品の中にはなぜかうまくひとつところに収められている。
たまたま都会の端で起こったこととされているけれども、この小説にある貧寒は、たぶん、東京オリンピックが終わってもしばらくの間は至るところにある平凡な日本の家庭のそこかしこで見られたことだろうし、ことによると、わたしの小遣いなども面と向かって指摘されないだけで、余人の目にはシミシミしたものに映っているのかもしれない。
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