ぴょん記

きょうからしばらく雨降る日々

野分のまたの日

 明け方、窓を叩きつける風の音が黙って寝ていられるレベルを超えたので、よその布団に潜り込んで、そのまま朝まで。朝になって、養生してあったメダカの水槽に餌をいれると、いつもより2時間遅れだったせいか、集合的に気分を害していて、全体として食い付きが悪い。気象庁の最寄りの観測点では、日付変わったころから149.5ミリの降水があったということで、これは先日のテレビで放送していた、ポンペイウスの軍隊が攻めたけれど服従しなかった岩砂漠の中にある都市・ペトラのあたりの年間降水量とほぼ同じ。

 常日頃、御殿の奥深くにのみ起き伏ししている父親の秘蔵の妻である紫が、嵐の吹き回して荒らした前栽や草花を気遣って珍しく端近へと姿を現したのを夕霧はひそかに目にして胸をときめかせる。当時の夕霧は、孤独だ。生母の葵は彼の出生とほぼ同時にこの世を去り、将来を誓った従姉の姫とは隔てられて六位の衣をその乳母に貶められる。葵の母で、夕霧にとっては祖母である大宮は不遇を託ちがちな老人となり、とにかく面白いことなどなにひとつない少年時代である。そこにまったくのアクシデントとして登場した紫。早速、夕霧が紫の姿を垣間見たのではないかと危ぶんだ源氏の聡さにはさすがというしかなく、それもそのはず、その昔、彼は、父の若い妻である藤壷に恋慕し、ついには通じて、その子を帝位に就けてしまうという大それたことを。だから、夕霧の母代としては、自分の正妻的立場にある紫ではなく、気立てはよいものの、容姿は劣り、「まちがい」の起こる余地の極限まで小さい花散里を立てたわけで。

 このような因循な結構を物語のここかしこに仕込む紫式部という個人なり集団なりのひとつの意識が、この島国に千年前に存在したのは、きっと海の水を吸い上げては雨で降らせてすぐまた川から海へと流して戻す、そういう気候現象とも無縁ではないような気がする。

 

田辺聖子全集 7 新源氏物語(上)

田辺聖子全集 7 新源氏物語(上)

 

 

 

田辺聖子全集 8 新源氏物語(下)/霧ふかき宇治の恋