明治2年の初夏、江戸城明渡しの直前まで大奥に生きた5人の女たちのはなしである。まず、天璋院篤姫の呉服之間のお針子「りつ」。内証は火の車の貧しい旗本の家の長女で、御目見得の身分ではあるが、その部署の長になる以上の出世はかなわない、いわば専門職として務める勤続11年目の26歳。次いで、以下者ではあるけれども、13代家定公に3人いる御台所の最初の人から仕えているという、長いキャリアをもつ仲居の「お蛸」。そして、桶屋の娘である御三之間の若い女中、和宮付きの呉服の間のお針子。最後に、部屋子出身の御中臈「ふき」。この5人の女たちが、和宮と天璋院、それに付き従っていた数多の女中たちが皆去ったあとの西の丸に居残る。明日は、薩摩の侍たちが大勢押しかけてくることになっている大奥に5人で残っていてさあどうするというはなし。
黒書院では六兵衛が動かないので尾張の侍がたいへん困惑しているはずで、それはそれで面白い。いや、これはまたべつのはなし。