ぴょん記

きょうからしばらく雨降る日々

『望み』

 この映画の舞台である戸沢という町は、おそらく埼玉県所沢市なのだろう。その関東の中核都市のひとつである町で暮らす石川家は、建築士の父とフリー校正者の母、高校生の長男に中学生の長女の四人家族。それぞれ堤真一石田ゆり子、岡田健史、清原果耶が演じる。

 姿をくらました長男が、傷害致死事件だか殺人事件だか、とにかくひとりの高校生が亡くなった事件において、加害者であって生存しているか、被害者としてすでに死亡しているか、まったくの藪の中であるために、三人の残された家族は激しく揺れる。家族が戸惑っているうちに、前者と判断した何者らかによって事務所を兼ねた自宅の外壁に生卵が投げつけられたのをはじめとして、落書きや事務所ホームページへの誹謗中傷、匿名掲示板上の憶測など、どんどん圧迫はエスカレートしていく。もちろん、メディアの取材攻勢も日増しに激しさを増す。

 親としては、もちろん長男に生きていてほしい。しかし、それは、未成年で殺人又は傷害致死の罪を犯した者の家族として、社会に対峙する人生を意味している。そして、高校受験を間近に控えた長女には、また異なる想いがある。

 ここで気になったことをひとつ。原作の小説ではどうなのかわからないが、原因が高校のサッカー部内でのトラブルである可能性が高そうであるにもかかわらず、長男の通う学校の教師が一切出てこない。ショッピングセンターのフードコートで、ゆり子が部活帰りの戸沢高校の生徒に自分の長男のことを知らないかと次々に尋ねるシーンがある。もちろん警察は、顧問の教諭を含む高校のサッカー部関係者には個別に問い合わせをしているであろうが、石川家の両親のいずれも、長男のクラス担任にもサッカー部の顧問にも問い合わせをしていない。

 こどもの通う高校と、そのこどもの家庭の関係とは、ことほどさように希薄なものだろうか。

 アマゾンプライムで視聴。堤幸彦監督作品。