ぴょん記

きょうからしばらく雨降る日々

川上弘美『水声』

 1958年生まれの著者とほぼ同年代の1学年違いの姉弟、都と陵という名のふたりが、1960年代から2013年までの東京の空気を吸いながら社会事象や家内の出来事に対処しつつ、ときに淡々とときに濃密に生きていく話だ。

 吉野朔実『ジュリエットの卵』 『エキセントリクス』という作品には、飴屋という家から出てお互いを離れがたく思った一対として描かれた人たちが出てくる。川上弘美『水声』には、そういう動的な執着の構造は示されない。感情の振れ幅が急激に大きくならないので、取り返しのつかない破綻にまでは行き着かない。同じ家で育ったきょうだいの間の恋愛は、人間の社会ではとりあえず禁忌の対象とされているようだから、これを恋愛とみると倫理上の評価が難しくなるかもしれないけど、大人が読んで考えるなり感じるなりする分にはなんの問題もないのではないかとも思う。