ぴょん記

きょうからしばらく雨降る日々

砂川文次『小隊』

 ロシアが北海道に侵攻してきたという架空の世界で、数においても装備においても優勢であるロシア軍を最前線で迎え撃つ陸上自衛隊の3尉が、この小説の主人公だ。ロシア兵との戦闘を開始する前、3尉は通信兵を連れて、まだ避難を完了していない住民の説得に向かう。30代の肉感的なその「住民」は、幼子を連れて女ひとりで避難したとしても、そこには何ら生活の基盤がないのに、と説得に応じる気配はない。彼の率いる小隊を構成する、父親的な定年間近のベテラン、母親的な下士官、頼りになる同年代の部下たち、そして年下の陸士たち。彼らの生命を預かる小隊の長として、砲撃に晒され、銃弾の雨を浴びて、国土の防衛に携わる職業を自ら選択したにもかかわらず、状況の理不尽さに弾けるような感情の奔流が生まれる。強烈な生への欲求と、それと等量の死に対する身軽さ。去来する幾つかの思い出は、いまこの現実を感じるための助走に過ぎなかったのだろうか。

(400字)