わたしの家は、生魚が主菜になることが多い。その理由は、中高年ばかりの世帯だからというが大きい。蛋白質の摂取源として、豆腐、卵に次いで、なにか動物性のものとなると鶏はともかく、牛豚よりは刺身の魚のほうが食べやすいといちばんの年寄りがいうのだ。グラム当たりの単価でいうと、生魚は、国産牛と同じくらい根が張るものだが、そこはなんとかしばしば生協の冷凍品を解かして使うなどして家計と折り合いをつけている。
そういうとき、醤油を味醂と酒で割って、刻んだ薬味を加えたヅケ液に5分から10分、薄い刺身を浸した「りゅうきゅう」は、便利な調理法で、調味料の割合は魚に合わせてしばしば変えつつ、よく作る。ことに秋は、鰤でも戻り鰹でも脂がのっておいしい時期なので、脂を若干酒で落として醤油と味醂でくるみこむ「りゅうきゅう」は、便利な食べ方ですね(と、お題に寄せる努力を試みる。)。そのほかの季節も均して、だいたい週に1回か2回は、「りゅうきゅう」にした薬味まみれの魚を炊きたてのめしにのせたり、酢飯に鏤めたり。きのうは、めばちまぐろを醤油味醂酒すべて等量にしたのに漬けて、葱と摺り下ろした生姜を薬味に選び、小さな丼仕立てにした。
そういうとき、醤油は、いつものキッコーマンでももちろんいいけれども、フンドーキンというメーカーの「紫」系統を使うと、少しおもむきが変わる。京都市在住のおいしいレシピをたくさん紹介してくださる料理家さんは、「スーパーで簡単に手に入る調味料をわたしは使います」とおっしゃっていて、わたしもそれに賛成する立場だけど、「りゅうきゅう」のヅケ液に限っては、フンドーキンの「紫」系統があればいいなあと思う程度に贔屓にしている。
そのフンドーキンの「紫」系統が、Amazonなどでは、なぜかこの春ごろからやや高騰しているような気がする。醤油と酢は、1.8リットル程度のペットボトルで買うのが好きなのに、なぜかフンドーキンについては「紫」の仲間たちが高くてなかなか手が出ない。Amazonさんでは少し高いなあと思いながら、キッコーマンの1.8リットルを買ったりしているうちに、とうとううちにあるフンドーキンのゴールデン紫が尽きてしまった。
市場では依然、立派に流通しているのに、なぜか買うのに値段の高さに二の足を踏む……わたしには、わりと多い動きで、命に関わるものでなければ、そのまま買わずに済ませることも珍しくはない。それは、高値に納得のいく理由がないときや、商品や役務に高値をおしてでもなお手に入れたい魅力が欠けている場合が多い。でも、「紫」は、十分に魅力的なんだけども、それでもAmazonで高値をつける事情が不審すぎる。
そこで、先日、所用で九州に旅した際、現地のネットスーパーで1.5Lのゴールデン紫を2本届けてもらい、それを関西の自分の住居に向けて発送した。値段は、これまでAmazonで買っていたのと同じ値段だったと思う。ともかくこれで、少なくとも年末年始ぐらいまでは、紫が不足することはなさそうで、ほっとしている。
今週のお題「秋の味覚」