足掛け3年にわたって制作された連続ドラマ。北アイルランドのベルファスト市にロンドンの警視庁からある殺人事件の捜査支援のために招聘されたギブソン警視が、これは単一の殺人ではなく、連続殺人であると判断し、「知能が高く、身体能力も優れ、そして劣等感に満ちた」犯人像を割り出した上で、犯人を追い詰めていく。
このドラマでは、わりと早い段階で、犯人は視聴者に示されている。長年に及ぶ、とくに作中では1970年代末からの北アイルランドにおける治安の不安定さ、中央政府との軋轢、大規模な武力衝突が原因となって、2010年代に至っても解消されない火種がそこかしこで燻ったりときに爆ぜたりする。
ギブソン警視自身の生い立ち、性的な振る舞いも含めた人生観、職務と人間全体に対する責任感なども、十分に余白を取った、しかし、けっして冗長ではないドラマ展開の中でさりげなく示される。むかし、少しだけ付き合った、上司の警視長のおじさんが、「きみは自分がどんなに男を惑わすかぜんぜん分かっていない」と、嫉妬したり、一時的に縒りを戻してくれと縋り付いてきたりする。ギブソンはそれを拒むのだけど、翌朝悪かったと謝られると、あっさり「いいのよ、じつは最近、わたしも間違ったことをするところだったのよ」とさらりと流す。
とにかく万事に冷笑的だった犯人が、最後には、真偽不明ながら部分的に人生を失ってしまったのがとにかく意外だった。ロンドンに戻ったギブソンが、自宅のダイニングで、『いったいあれはなんだんねん』という表情でワイングラスを傾けていたのと、視聴者の一部は、わたしも含めて同調したと思う。