ぴょん記

こつこつ憶える

虹の向こうに

 やっと『ハンナ・アーレント』を観た。iMS でレンタルして、なかなか観られなくて、入院中にでもとiPadに移したらますます観ることから遠ざかって、きのう、心づいて調べてみたら「残り17時間」で消去されるところだった。こうやって何本の映画を見逃してきたことか。というわけで、夕方から夕食を挟んで2時間弱の鑑賞時間。全体主義の思想史上の位置づけを試みた哲学者による元ナチ高官の裁判傍聴が、その後雑誌「ニューヨーカー」に連載されたレポートを通じて、大論争を生じさせたという話。アイヒマンの為した悪の凡庸さについての記述以上に、タブーとされていたユダヤ人社会の内部問題への言及がアーレントへの非難のより大きな原因として挙げられていた。被害者の無謬性を過度に追求するのはときに反射効として加害者が棚ぼた的に利を得る以外はだれをも幸せにしないが、1963年当時のイスラエル及び世界のユダヤ人社会にとっては、大虐殺は、過去の記憶どころか、生々しい現在の危険であり、アーレントの論評によって毀損されるおそれのある価値こそ、民族の生命と誇りに賭けて守り抜かねばならないものとされていたのだろう。それを十分に予見しつつ、あえて文字にして世に問うたアーレントもえらいが、そのアーレントを生んだ豊穣な思考の土壌もまた評価されるべきだと思う。