ぴょん記

こつこつ憶える

生きていくたたかい

 平日午前8時過ぎのD大学医学部附属病院の再来受付機の前……。まもなく始まる外来の自動受付のために、8列×12人程度の人間がマシンの前に、ぎっしりと佇立している。その一部となるたびに世界史で習った重装歩兵の稠密な隊形を思い出すのだが、並んでいるのは精悍な軍人ではなくておおよそ50代後半以降の中高齢の男女、それも病人たちである。かなり足腰に深刻な問題のある病者は付き添いの家族を代わりに並ばせて自分は待合ロビーの椅子に腰を下ろしているが、そうでない人は40分から10分程度、列に並んで順番を待つ。各自の身体の近さは、たとえば急に冷え込んだ朝など、近くの人の外套にしみ込んだ防虫剤の匂いで目眩がするほどだ。さて、再来受付機の稼働。人々は、患者カードを機械の口につっこんで、本日のメニューと院内呼出機をひったくる。それから急いで別の受付がある採血やレントゲンに向かうために患者カードを取り忘れる人も続出するほどだ。やっとマシンでの受付を終えたわたしは院内規則通りに廊下の左端をとぼとぼ歩いて採血に向かうが、その背中を突き飛ばしかねない勢いでわたしの後に患者カードをマシンに通した明らかに還暦を過ぎた男性がやってくる。でも、恨まない。わかっている。採血を早く終わらせてレントゲンも撮って、検査結果が主治医の手元に届くまで小一時間。それから診察されて薬の処方箋を貰って会計して病院を飛び出す。午前半休が取れればいいけど、時間休だったらせめて10時半までには出社しなければ。……などと想像しながら、たっぷり採られた血を補うために、院内のコーヒーハウスでおおぶりのシナモンロールにかぶりつき、わたしもまた、仕事用のPCを広げるのであった。

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