ぴょん記

きょうからしばらく雨降る日々

『イシュタルの娘』第15巻

  幼い日に織田信長に才能の片鱗を認められた女文人・小野於通の人生もいよいよ大詰めを迎えている。画業50年を迎えられた大和和紀さんが毎年5月と11月に出されるこの作品が大好きでとくに物理版で揃えている。家というものを失った於通に和漢の教養を授け、のちに宮中や有力武家への出入りを可能にさせた九条殖通という公卿にして古典学者であった貴紳の存在や、於通と事実上の夫婦であったと描かれた三藐院・近衛信尹のことなど、この作品がなければ、なるほど名前だけは歴史上の人物として知ってはいても、血肉をもった人間としてはとくに関心を向けることなく過ごしていたことだろう。三藐院の妹である中和門院の御子のひとりが後水尾帝であり、権力と財力による徳川の支配に公卿社会が雁字搦めにされる構造が形成された、ごく初期のころの人である。ただし、それに先立つころ、三藐院の3年に及ぶ薩摩下向によって近衛家と島津家の縁は深まり、徳川家の御台所であった広大院と天璋院は、島津家の出身であるが、それぞれ近衛家の養女の資格で江戸に迎えられている。鎖国もしていた島国の、ほんの250年間のことだもの、支配階級の繋がりというものがときには公然とときには隠微に示されながら脈々と続いて、いずれ大きな出来事に繋がることは十分にあり得ることではあるけれども。とにかく面白いので、どなたさまにもお薦めしたい。

 

イシュタルの娘~小野於通伝~(15) (BE LOVE KC)

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