ぴょん記

食べる、遊ぶ、学ぶ。

近未来、タイの都会で

 パオロ・バチガルピは、現代文明が衰退していく近未来を舞台に人間の諸相を描くこともある。短編集『第六ポンプ』所収の『イエローカードマン』は、そのカテゴリーに属する作品群のひとつで、マレー半島から排斥運動を受けてタイへ難民として渡ってきた華人の老人が、おのれの命ひとつを抱きしめてなんとか生き抜くはなしだ。長編『ねじまき少女』に出てきた女性型アンドロイドも、少しだけ顔を覗かせる。

 暑い、狭い、汚い、ひもじい、悪臭、湿気。それが物語の舞台であるタイの大都市だ。前半生を富と才能に恵まれた実業家として過ごしたチャンは、家と会社、妻も娘たちも息子たちも愛人たちもすべて失ってしまった。彼は係累を失った心細さに浸ることも許されない。チャンの日常は、今日明日生きていけるかという切羽詰まった状況に身を置く人間特有の間断なき緊張状態のただなかにこそある。彼の境涯を通じて、難民になるということは、こういうものなのだと示される。

 たしか6年前ほどに読んでいるはずだが、何度読んでも迫力がある。

 

第六ポンプ

第六ポンプ