ぴょん記

きょうからしばらく雨降る日々

『グリーンブック』

 出自ではなく、才能によって洗練された振る舞いを身につけた黒い肌のピアニストと、腕っ節と度胸のよさで鳴らしていたナイトクラブの用心棒が、1962年のアメリカ深南部を興業旅行して回るロードムービーでもあり、観客にとっては、ほんの5、60年前の人種差別が慣習と呼ばれていたアメリカへのタイムトラベルでもある。

 1960年代は、いまだ、アフリカ大陸などにルーツをもつ肌の色の濃い人にとって、ひとりで定められたエリアから抜けること、夜間に歩き回ること、そして警察官に逆らうことが命懸けだった時代だ。ことにニューヨーク市に代表される東部に比べ、深南部では、黒人が旅をするためには、「グリーンブック」という題名の黒人の宿泊が許されたモーテルなどを紹介した旅行案内を頼りに、ごく控えめに振る舞わなければならない。その深南部及びその周辺の各都市で、白人の聴衆に熱烈な歓迎を受けるピアニストは、しかし、その肌の色ゆえに、演奏するレストランでの食事を断られ(物置のような控え室で食事をしろと言われた。)、邸宅のふつうの手洗いの使用を禁じられた(示されたのは、庭の隅に立つ使用人用のトイレだ。)。

 街中では、不当に試着を断られ、不当に殴られ、不当に逮捕され、それでもピアニストは旅を続ける。はじめは立ちはだかる異文化の壁と、拭いきれない差別感情ゆえに雇い主との距離を感じていた運転手兼ボディガードは、ピアニストの才能に感動し、旅回りによって触れる景物の豊かさに、だんだん自分の立ち位置をずらしていく。その変わりようが、潔くて観る者を引き込む。ピアニストもまた少しずつ(行儀悪く?)変化していくのだけど、それはまた別の話。

 ただし、黒人の同席を拒むことを差別ではなく慣習であると言い張る60年前の人々を旧弊で啓けぬ者たちと処断することがこの映画の目的ではない。大笑いしたあと、もし、身の回りにひとつだけでも、自分が寛容になれることがあったら、それを心懸けてみてほしいというのが隠れたメッセージのような気がする。

gaga.ne.jp

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帰りに「つる瀬」さんで餅菓子ぎっしり。