船戸明里『Under the Rose』のハウスパーティーのあたりで、若い男爵夫人が他家の家庭教師であるレイチェルにいう。
「ねえ ミス・ブレナン」
「貴女はどんなに辛くても」
「あの時あの場で弁明するべきだった」
「貴女はあの場にいた全員を『醜聞を信じるような人間』だと決め付けて侮辱して傷つけたのよ」
「あなたはアスパン夫人を信じなかった」
「いいこと?」
「私が貴女を信じてあげたのだから」
「今度は貴女が誰かを信じる番よ」
船戸明里『Under the Rose』(5)
男爵夫人は名誉を重んじる貴族階級に属し、ロウランド家の家庭教師であるレイチェル・ブレナンはその階級に仕える、しかし、学問を教えることによって身を立てている教養ある婦人なので、倫理を共有する部分はあると思われる。 ここで彼女が説明すべきだったとされているのは、彼女がもとの雇い主を誘惑したという噂の真偽である。真実は、もとの雇い主が彼女を強姦しようとしたが未遂に終わったというものだった。その家庭を解雇されてから長いこと新しい職を得られず、世の中から干された形だったレイチェルがやっと就職できた先が、現在の勤め先であるロウランド家だった。新しい直接の雇い主であるロウランド伯爵は、そういう噂があることを含んだ上で彼女を雇っている。だから、屋敷の客人にすぎない男爵夫人たちにその噂の真偽について申し開きをしなかった過失を責められるのは、レイチェルにとってかなり酷だと思う。
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近所の人に立ち話ついでにちょっと聞かれてずいぶん怪しくなっていたので、知識をアップデートするために購入。「ワークルール検定」というのにも興味がある。受けるかどうかは別として。