十数年前、『重力ピエロ』の映画を観て、また、原作を読んだとき、物語の進行、その筋立てのみならず、読む者の心まで有無をいわせずぐいぐいと運ぶ伊坂幸太郎の文章がもつ圧力にうちひしがれた。こんな不幸に遭ったにもかかわらず、この人たちはこんなにもひたむきに在るという思いの前にわたしたちは、なんかいも立ち竦む。
『フーガはユーガ』は、たとえば『危険な関係』がどの国のどの時代に設定を動かして翻案されようとも、浮かれ男とその腐れ縁の悪い女、純真で貪欲な若い恋人たちと、盛りは過ぎたが汚れなき貴婦人のものがたりであるように、ある程度、小説を読み慣れた人にはああそうなのかとわかる額縁のなかでおはなしが始まる。そのフレームはそれとして、ふたりでひとりだが、やはりひとりひとりである双子が、面白半分に家族に暴力を振るう父親とそれを黙認して気配を消している母親という環境から、「わからないことは人に尋ねる」という手段ひとつでなんとか生き残り、這い上がり、ひとつの目標を達成する内容は、とてもいいのでぜひ読んでみてほしい。