ぴょん記

きょうからしばらく雨降る日々

『女文士』

 武者小路実篤の愛人で、中山義秀と結婚(のちに離婚。)した女流作家・眞杉静枝の人生を評伝仕立てで記した作品。林真理子は、『ミカドの淑女(おんな)』という作品で、学習院女学部長・下田歌子の人生をこれと同様に時系列にしたがって描いたことがある。このときは、下田女史を世間的に追い落とす原因になった万朝報の記事を小説中に挟み込んでいたが、『女文士』では、眞杉静枝の暮らしの片隅にちらりと現れては消える食べ物が各章のタイトルになっている。植民地で育った若い女が単身内地へやってきて、仕事から仕事、そして、男から男へと流転を重ね、往事の美貌も健康も失って、やがて亡くなるまでの話だ。下田歌子と同じように、女であっても世に立とうと志を抱いた者に、世間の風は男一般に対するよりもずっときつくあたる。だから、その分だけ、同時代人によって投げつけられた悪評を割り引いて評伝などを読むことが、同性である女に許された一種の特権のように感じられる。

 

女文士(新潮文庫)

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ミカドの淑女(新潮文庫)

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