ふつうの水仕事ではそれほど手荒れをしないのに、さきほど土のついた野菜を数種類触って洗って切って水に晒してと、豚汁の基本的下拵えをしていたら、あっという間に手の水分をもっていかれた。土は、だいたいの場合、渇いているので、都会の女の軟弱な皮膚を覆う僅かな水分にさえ容赦しないのだろう。
台所での作業を終えたので、2週間前の通院前、慌てて保存容器に詰めたハンドクリームを急いで手指に塗り込む。たまった古新聞を新聞紙整理袋に詰めるときでも手袋をしようかと思うくらい、このごろはすぐに水分が奪われる。北西からの風によって集められたおれたちのなけなしの水分は太平洋の真ん中に吸い取られ、やがて、長くとも数ヶ月先には、じっとりと梅雨寒の肌を湿らせる空気に混ざって戻ってくるのだ。
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