ぴょん記

寒いのは好き、そして春も待ち遠しい

『夜また夜の深い夜』

 いまでは日本ペンクラブの会長に選出されるほどのキャリアを築き上げた桐野夏生さん。『OUT』『グロテスク』『東京島』など、わりとふつうの人生を歩んでいた女に突然訪れる破綻を描かせたら現代日本で一番か二番の作家さんといえるだろう。

 特に、1997年の『OUT』で、東京近県の深夜の弁当工場に出勤する女たちが、日中は主婦の働きを続けつつ、時給いくらの連日の重労働を選ぶそれぞれの理由、そのうちのひとりに降りかかった災難、決断、結束と別離は、文庫本になってから読んだ当時のわたしにはそれほど遠くにある絵空事とも思えず、フィクションを読んでそれをダイレクトにわが身に擬える不思議を味わったものだ。

 この『夜また夜の深い夜』は、イタリアのナポリに住む18歳の少女の身に起こった、だいたい1年少しの間の話を書簡体その他で描写した作品だ。長期の潜伏生活ともいえる奇妙な暮らしを母親とふたりで送る少女は、実在かとも思われる年上の女性に宛てて手紙を綴る。母親は、彼女に、菓子屋の店番のアルバイトに出る以上の大抵のことを禁じており、小学校より先の学校教育も受けていない少女はとても孤独である。そこに現れたManga Cafeと経営者の青年、家出した先で知り合ったリベリア出身とモルドバ出身の2人の少女、次第に広がっていく少女の世界は、ひとつの謎の解明に向かって突き進んでいく。

 自分は、いったい誰なんだろう。

 それが解けたとき、なにかが変わるのだろうか。

 ところで、あなたは。