ぴょん記

きょうからしばらく雨降る日々

『誓約』『侍女の物語』

 1985年に発表された『侍女の物語』で、マーガレット・アトウッドは、度重なる自然災害や放射能汚染に見舞われた近未来のアメリカ合衆国で、クーデターを成功させた『ヤコブの息子たち』という勢力が政権を握り、ギレアデという政教一致の国家を成立させたのちの世界を描いた。環境の悪化により、極端に出生率の低下したギレアデでは、支配階級の「司令官」に、「侍女」が宛がわれ、司令官夫妻の子を産むように仕向けられている。

 この『侍女の物語』は、侍女のひとり、オブフレッドがカセットテープに吹き込んだ一人称の物語であり、しかも、芥川の『羅生門』の、「下人の行方は、誰も知らない」同様のいわゆるオープンエンドな終わり方だった。それゆえ、アトウッドは、その後のオブフレッドの人生、そしてギレアデの潰れ方について数え切れないほど尋ねられてきた。特に、エミー賞で各賞を受けたテレビドラマが放送されたあとは、この種の質問の量がはげしく膨れあがったので、その問いに答えるために書かれたのが、2018年の『誓約』であるらしい。

 現在、そのドラマ、『ハンドメイズ・テイル』は、最終の第4シーズンがWOWOWで放送中である。NHKのBSPで、『雲霧仁左衛門』を池波正太郎の原作に加えてオリジナルの筋書きで継続するのにも似て、オブフレッドと呼ばれた侍女、ジューンがギレアデの支配者を向こうに回して明らかに不利な戦いを続けるストーリーがPCの向こうでは流れている。

 『誓約』は、これとは別の話で、ある見方をすれば、これは、ジューンの前に大きく立ちはだかる、リディア小母の内心に深く踏み込んだ物語でもある。「小母」というのは、ギレアデの国家モデルの中では、例外的に文字の読み書きを許された女性の総称で、司令官の妻、娘、女中、そして侍女たちを管理する職責を負う。家庭裁判所の判事であったリディアが、どのようにして「小母」となり、政権内部で権力を掌握していったのか、その筋だけでもひとつの映画が作れるほどおもしろい。

 

 

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