2019年のゴールデンウィークが10日間あったのは、その最中も前も後もそれぞれにしんどい思いをしたにはしたけれど、今般のはまあちいと長いわなあと、おかあちゃんはダイニングの椅子に腰をおろして人参の皮を剥きながらいう。
「まあちいと長い」とは、婉曲すぎてどないなものかとも思わんでもないけれど、人参を当てたしりしりの削り口から、細長い人参が次々と出てくるのをぼくはうっとりして眺めている。大学の授業はオンラインで、あとはダイニングのテーブルで宿題を解いたりおかあちゃんのごはんの仕度するのを眺めたり。春になったら摘み草に行こうなあと約束していた山田のおじいちゃんとの約束も果たせてへんし、ゴールデンウィークにこっちに来るはずやったイギリスからの友だちもまあちっと先にしよかと早々にメールでいうてきた。
山田や田中は、府立高校の3年生やから、もう大学受験の勉強をせんといかん。いつもなら約束もせんと玻璃くんいてますかあお邪魔しますうと玄関に回ってくるのに、このごろは電話かけてきては玻璃くんいまちいとええかわからんとこがあるんやけどとこそっというてくる。ぼくはウサギやからまあ平気やろうからうちにきて上がってくればええのにというたけど、いや玻璃くんはようてもおばちゃんややご高齢やしなあと殊勝なことをいう。でもこれはおかあちゃんにはよういわん。
なるほどおかあちゃんはややご高齢ではあるしやや病がちなところもあるので、ごはんの材料はお店のひとがうちの勝手口まで届けてくれる。でも、そのあと、野菜を洗って切って肉や魚や豆腐や卵の下ごしらえをして料理して、後片付けをするのはおかあちゃんや。もう奥さんうちへとへとでと山田のお母ちゃんが電話してきたり、近所の奥さんがなんとかの炊いたんここに置いとくよって、と玄関のガラス越しにいうて去ったりする。お母ちゃんは近所の奥さんにその折り預かったタッパーウェアに自分で拵えたお惣菜を詰めてお返ししたり、山田のお母ちゃんに同じのを多めに届けたりする。そういうお使いは、ふだんならぼくがちゃーっと(山田か吉田くんかともかく誰かが漕ぐ)自転車に乗ってしていたんやけど、いまの時期は、あんたはおうちにおとなししておりなさい、目立つのはようないからという。
思わず、八の字眉毛になってもうた。それを見てお母ちゃんが笑う。
おうちにおらないかんのやのうて、いまだけ思う存分、おうちにおられるんやって思わんとこの先へたれるで、と、お母ちゃんはいうけれど、みんなほんとお疲れさま。