ぴょん記

きょうからしばらく雨降る日々

田舎のお祭りに招かれた夢

 どこかの畑で大根を引いていたら、そばの小道を歩いていた奥さんが財布を落とすのを見たので、大声で知らせて本人は無事に財布を拾った。ぜひともお礼をせねばなりませんと言われて、さんざん辞退したけれども、わたしの雇い主のご夫婦もこうまでおっしゃってくださっているのだからここはひとつご厚意に甘えなさいというので、野良着のまま、奥さんの息子が運転する軽トラックの荷台に載せられて*1、ちょうどお祭りの最中だという奥さんの家に招ばれていった。なお、息子といっても所帯持ちの中年男である。

 途中でわたしの履き物が踊りの社中のトラックに誤って載せられていってそれを取り返すために軽トラックが社中の車を猛追したことなどの詳細は省く。

 前庭を広く取り、右手に厩舎、左手に白塗りの倉を控えた大きな家は、この地方の大百姓の標準的な屋敷だ。ところで、当地の祭礼の賑わいは、都市における祭のようには顕かではない。控えめな幟が数本、風にはためき、特異な化粧を額に施した男の子たちに比べて、裏方として立ち働く娘らの装いは普段とさして変わらず、ただ目を射るばかりに白い前掛けがうつくしい。

 その田舎の大きな百姓家の何番目かの客座敷には、偶然、卒業後に四国の実家に帰ったわたしの同級生も小さな卓で供応の膳を出されていた。そこへこの家の奥さんが現れ、本日はほんとうに助かりました、心ばかりの膳でございますが、どうぞお召し上がりくださいと丁寧に挨拶された。奥さんがいなくなって一呼吸おいて、同級生に、それでいまどんな仕事をしているのと問われ、わたしは近在の農家で住み込みでいろいろお手伝いしているの、坊ちゃん嬢ちゃんの家庭教師から奥さんの手紙の代筆、台所や針仕事もするし、今日なんて大根引きを朝からやっていたわ、と答えると、どうりで昔より元気そうにみえると彼女はいった。

 そうしている間にも、わたしの前にも化粧を直した奥さんや、この家の手伝いの人たちが巻き寿司や吸い物、焼き魚や酢の物など、次々に並べてどうぞどうぞと勧めてくれる。日はまだ沈むまでには余裕があり、なぜ、この同級生とご飯を食べることになったのか、悲しいことを思い出しそうになったが、そこはなんとか抑えて、柑橘の酢のきいた酢の物や脂ののったぷりぷりした焼き魚を楽しんだ。食べ終わって、お茶とお菓子が出たあと、前後しましたが、どうぞこのおうちの仏様を拝ませてください、といって、拝んだついでに出がけに雇い主の奥さんのほうからもたされた白い封筒を中身を改めもせずに仏前に供えてきた。

 もとの座敷に戻れば、同級生はすでに辞去したあとで、それではお宅までお送りしましょうと、体格のよい次男坊とその嫁がにこにこ笑って申し出てくれたので、奥さんと長男であるらしい息子に挨拶をして、再び田舎道を軽トラックの荷台に座って帰って行った。

4年半前の5年日記さんと鹿児島睦さん(のカバー)。

 

*1:現行法では、×?