一週間ぐらい前から手の指先に痛みが走るようになって、わたしの末梢のほうは痛みと痒みをごっちゃにする傾向があるので、これはほんとうは痒みだ、しかも、これだんだん困っていくやつだと思っていた。対処薬の抗ヒスタミン剤はもらっているけれども、これはとても効くかわりに、わたしのはっきり起きている時間を根こそぎ奪っていく力があるので、なるべくならばのみたくないのだ。
でも、今回は、もうのまないでいるという選択は許されなかった。日を追うごとに強まる痒みが、髪の地肌や背中のあたりにまで広がっていった。20年ほど前の初診時、アレルゲンの有無などを調べた皮膚科医が、「厭なことが起こると、痒みが……?」と実に微妙な表情をこちらに向けた。わたしは、そんなことってあるのだろうかと医師の表情に似せた顔をしてみせるしかなかった。
いまも厭なことは幾つかある。中年なのだから厭なことの幾つもあって当たり前だろうとはわたしは考えない。ある程度の時間、この人の世を生きて、それなりに経験を積み重ねたにもかかわらず、厭なことがあってそれを解決できずにいる。それが情けない。だからこそ痒みも出る。
明け方に、OD錠をひとつ。なるほどたしかに痒みはひいた。ただし、この起きていられない眠気はどうだ。暇さえあれば毛布を被って部屋の隅で丸くなっているぞ。