ぴょん記

きょうからしばらく雨降る日々

よしながふみ『大奥』第16巻

 

大奥 16 (ヤングアニマルコミックス)
 

  男女逆転大奥も第14代将軍家茂の時代を迎えて、いよいよ大詰めである。女性である将軍が、公武合体のために、時の帝の弟宮を御台所に据える。ところが、この和宮さまが本物とすり替えられており、という展開だった。

 和宮さまにすり替えとくれば、有吉佐和子和宮様御留』である。この作品は、将軍家へ降嫁する内親王に付けられた公的な御附女官であった庭田嗣子が、京都を出立する前の準備から中山道を通っての御行列、江戸に入って結婚準備のための御殿暮らしを経て、江戸城大奥でのあれやこれやを綴る備忘録の体裁をとる文章を挟んでいる。しかし、作品中で、孝明天皇の妹である和宮は、2回、別人にすり替えられている。つまり、京都を出たのは偽物のフキで、ある事情からフキが身代わりの宮を務められなくなってからは、江戸近郊の大百姓の娘(歌絵さんといったか。)が和宮として大奥へ入ることになる。

 では、本当の和宮は、というと、母親の観行院らの手配で、京都の目立たないけれども格式の高い尼寺で髪を下ろしてしまった。ずっと仕えていた乳母やのほかは、母親にも会えなくなることを覚悟して、そうまでして江戸行きを拒んだ理由は、足が不自由であり、それを衆目に晒したくなかったから、と。その和宮の第一の身代わりのフキは、御末の出身であって健康であったが、第二の身代わりの歌絵さんは、左手の手首から先が生まれつきなかった。

 よしながふみ『大奥』でも、この、「足が不自由」「片手がない」というモチーフが編み込まれている。比類なく尊貴の血筋を引く身であるのと同時に、けっして軽くはない不便さを抱えて生まれてきたといういたわしさを「母」の視線でかなしく読んでしまうのは、わたしの年のせいというのもあるけれども、よしながふみの画力と構成力によるものが大きいと思うのだが。

 

新装版 和宮様御留 (講談社文庫)

新装版 和宮様御留 (講談社文庫)

 

  これもぜひ読んでほしい。ドラマになったときは、フキは、大竹しのぶさんが演じたらしいですよ。