ぴょん記

きょうからしばらく雨降る日々

地元に帰って新しい恋をみつける

 西炯子の『姉の結婚』を読み返した。図書館司書で、雑誌に書評を寄稿したりもする主人公のヨリは、中崎の出身。離島を多く抱える中崎の公立校の教諭を父にもつ。ヨリは、40歳を前にして、都内での仕事に見切りをつけ、中崎の県立図書館に勤め替えをする。そして、再就職してから2年を過ぎたころ、同年齢の精神科医・真木に猛烈な勢いで接近されるが、彼の正体は、実は、という鶴の恩返しのような寓話でもある。

 

  恋が、社会に出て、20年も経とうという女の傷を完全に補償するとは思わない。生物が地球上で生きていれば、紫外線や酸素で身体がやがてぼろぼろになるように、ひとりの女がどんなにひそやかな存在であり続けようとしても、長い年月のうちには、それなりに大小の傷を負うことになる。真木という男が、全身全霊かけて、ヨリを愛そうしても、男というものを信じ切れずにきたヨリは、なかなかその手をとることができない。

 そして、ヨリの15歳下の妹の留意子。彼女の出生に纏わるエピソードについて、お話の最後のほうで知ったとき、ほろりと泣けてきた。日本の中高年の描写にかけては、今市子ほどの描き手はいないと思っていたけれど、西炯子の描くおばさんも味わいがある。生き生きと美しい40歳前後の女性たちを描く西さんだが、それが還暦付近を過ぎると急激に描線が変化するのだけど、それはそれでよい。

 

初恋の世界(6) (フラワーコミックスα)
 

  『初恋の世界』は、映画化もされた、『(おとこ)*1の人生』と同じく、角島が舞台。後者は、県内の鄙びた半農半漁の町のはなしだったが、今作は、角島市内が中心。中崎も角島も、路面電車がよい感じである*2。この作品の最新刊では、地元の製菓会社のお嬢さんで、歯科医と結婚した「よっさん*3」が、恋に落ちた銀行の支店長「白浜さん」と、偶発的な恋の逃避行に出る。その駆け落ち旅行の先として、描かれているのが、別府。地獄はあるし、また、駅の改札なんて、まるで実物そのものだもの。ものがたりの冒頭から、「よっさん」は、2児の母ながら、まるきりイノセントな存在として叙述されてきた。その「よっさん」の心を蝕んできた、いわば闇の原因の3分の2は、夫の所行にあるのだろうが、残りは、きっと甲斐性のある男には寛容に放埒を許す、そういう土地柄や空気に帰責されるべきだろう。

 とはいっても、相手が土地柄や空気じゃ幾ら文句いってもしょうがないんだけど。わたしは、誰かが不都合を抱えて生きていることを、迂闊さや怠惰など、その人だけのせいにしたり、その逆で、土地柄や空気、時代や社会といった環境の悪さの結果と決め付けたりするのの、両方厭ですわ。責任割合は、厳密に計算いたしましょうよ。

 それから、恋は女を完全に救いはしないけれども、あればあったでよいものでしょう。ないからといって、いのちに関わることもないけれど。 

 

*1:これが一文字。

*2:そして、松山や札幌も、そう。

*3:主人公ではない。主人公である薫の高校からの友だち。