ぴょん記

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灰原薬『応天の門』における「狩の使」

 『応天の門』は、はじめ、Kindle版で購読していたが、4巻目からはKindle化されるのを待てなくて(市中の書店への配慮か、単行本の出版とKindle版のリリースの間には1ヶ月程度のタイムラグがある。)、単行本で買って読んでいって、あとからまたKindle版を買うようになった。そのくらい、執拗な読み返しに耐えうる作品なのだ。このごろでは、その単行本も待てなくて、アマゾンの読み放題で掲載誌の月刊バンチ本誌を読む始末である。

 さて、最新のものがたりでは、在原業平は、奉幣使として伊勢神宮に派遣されている。年の差バディの菅原道真は、今回、みやこで勉学に励む。伊勢には、清和帝の母親違いの姉妹である斎宮がおり、その母である御息所もいる。業平の妻室の縁者でもあるこの貴女ふたりは、目下重大な秘密を抱え、そして御息所はかなり重い病を患ってもいるようだ。

 『伊勢物語』では、朝廷から狩の使として伊勢にやってきた身分のある男(業平)は、帝の御代の安寧を祈るために清浄な神域に奉仕する皇女である斎宮と思いを通じ、しかし、その恋を成就させることなく、身の不運を嘆きながらみやこへ戻っていく。それが、『応天の門』では、まだ青年だった業平が、斎宮の母御息所が時の東宮(のちの文徳天皇)に召される前に、ちょっとした窮地を救ってもらった、という伏線が張られている。つまり、『応天の門』の業平は、絶対的な貞潔を守る斎宮に恋を仕掛ける不羈奔放な貴紳ではなく、母御息所とともに、斎宮を守る大人として行動することになる。これに伊勢から離れた京師で暮らす道真がどう関係していくのか、すごく楽しみである。