ぴょん記

食べる、遊ぶ、学ぶ。

『一死大罪を謝す』

 役所広司さんは、『孤狼の血』では警職法の向こう側を泳ぐ警察官を、『すばらしき世界』では生涯の殆どを塀の内側で過ごした元受刑者を演じた。『三度目の殺人』で扮したのも、若いころに殺人を犯し、出所後ひっそりと暮らしていたが、ある事情から再び人をあやめたとして逮捕された被告人だった。『七つの会議』のお終いで出てくる弁護士にもなっていたけれど。

 彼はまた、山本五十六阿南惟幾をそれぞれ別の映画で演じている。太平洋戦争の戦局が敗北に傾いた、又は完全に終了した時点での海軍と陸軍の最高責任者のすがたを演技で示したのだ。このうち、阿南惟幾については、『日本のいちばん長い日』(2015年)での配役であり、役所広司はこの群像劇にあって、昭和天皇との侍従武官時代からの交流、終戦内閣に陸軍大臣として参加する立場の難しさ、そして家庭人としての阿南を見事に演じきった。山崎努が演じる首相鈴木貫太郎が海軍出身で、侍従長であった時期にちょうど阿南が侍従武官であったという関係の親しさも、またそれゆえの厳しさもよく伝わってきた。1967年版の映画では、激昂と興奮の圧力があまりに高すぎて、何度見返しても難しい話だという以上にはわからなかったが。敗戦から20年しか経っていない版と、70年を経て作られた版では、制作する側の気持ちが自ずと異なるのだろうが。

 2015年度版の昭和天皇は、本木雅弘さんだった。日本陸軍の歴史は、この敗戦で一旦完全に武装解除されたことで、その誕生から80年をみることなく終わった。京都と東京の両方を首都といたしますという建前でされた東京奠都ののち、1868年10月13日に明治天皇が東京にお入りになって、明治、大正、昭和と時の過ぎるうち、帝国は連合国に対して降伏を告げてしまった。

 阿南は終戦詔勅玉音放送として全国に流れる数時間前、陸相官邸の縁に正座して割腹して果てたが、後日、東条英機元首相は、戦犯としての逮捕を避けるために自殺を試みて失敗した。そして、彼を生かし、裁判での判決を受けさせるためとして、かつての敵国の兵が輸血用の血液を提供した。たくさんの「戦犯」が、それぞれの場所で裁かれ、死刑にされたり自由刑に処されたりした。

 そうしたたくさんの戦犯、戦争で亡くなった数多の軍人、軍属、民間人、敗戦直後の飢餓や寒さ、病気で亡くなった大勢の人に、向き合うためのその後の44年というものを思うと、歴代の天皇のなかでも昭和天皇の存在は際立ったものであるといえるだろう。