ぴょん記

食べる、遊ぶ、学ぶ。

現実の闇を歩く

 わたしは既婚で現在よそで遊んだりもしておらず、そのほか真剣な関係にもなっていないので、生々しい恋愛の現場から離れた場所にいる。宇多田ヒカルの『二時間だけのバカンス』の、「物語の脇役になって大分月日が経つ」だ。その「大分」が、何百日か何千日かの違いがあるかという話で。

 鳥飼茜『先生の白い嘘』の「早藤」は、最終的に自分の刑事責任を認めた。彼の妻「美奈子」は、彼の行いを動機ごと理解し、生涯寄り添っていこうとしている。「美奈子」が「早藤」が「美鈴」にしていることを含め、たくさんの事実を正確に知りながら、それでも彼の子を生み、必ずしも愉快とは限らない人生を歩むことを選択したのは、彼女自身が同性はもとより潜在的に社会全体に向かって嫌悪感を抱いていることと無縁ではないだろう。

 『あなたのことはそれほど』では、2組の夫婦の合計4人のうち、まあまあ裕福で円満な家庭に育った有島光軌のことば:

「でもさ香子チャン/あんたのいい人が人にもいい人じゃあないだろう/いい人でもいやだろう/いやなやつでもいいだろう/俺あ あいつの旦那は こわいよ』 

 美津という、「二番目に好きな人と結婚すれば幸せになれる」と魔女(占い師)から一種の呪いをかけられた女が一番好きな相手は光軌であるからと当然のように肉体を差し出せば関係を結び、とりあえず家庭を守る方向で美津を拒みはするが、それほど強くは対策を講ぜず、美津の夫が自分の妻と子に接触する事態を招いてしまった、光軌はそういうどこか緩い男である。その男が引用した台詞を口にする。彼のあたまのなかはいったいどうなっているのだ。

 ただいま月刊「flowers」で連載中の、西炯子『初恋の世界』は、旧作『STAY』シリーズの女子校に通う少女たちを彷彿とさせる4人の女が「角島」で、高校を卒業して22年目の40歳の毎日をそれぞれに送る話である。そこには、出会ったばかりの女性(たいてい未通である。)を強姦して何食わぬ顔をして暮らす男も、同じマンションの住人夫妻と一緒に動物園にいって、自分の妻の愚かさを詰る男も出てこない。一見してまともな地方都市で、地元ではよい家庭の娘が通う女子校を出た人を取り囲む、「きちんとした」舞台設定で話が進む。

 

初恋の世界(1) (フラワーコミックスα)
 

 

 

初恋の世界(2) (フラワーコミックスα)
 

 

 

初恋の世界(3) (フラワーコミックスα)
 

 そこには、「人生はともかく、わたしにとって愛はままならない」という少女まんがから大人向け少女まんがが受け継いだ大きなテーゼが、でんと茶の間に居座っている。高校の同級生で、4人とも40歳。まんがだから、見た目は20代の後半の女性と比較して、殆ど遜色ない。家庭が崩壊しようとしている、恋が始まらない。そもそも恋しなければいけないのか、好きな男には家庭がある、と、それぞれの事情を抱えながらも、表面上はえげつないトラブルは発生しない。それもまた地獄。

 翻って、わが身を眺むれば、とても気難しすぎて人交じらいをしたい気分ではない。ふつうに行き来ができて、それなりに口が堅ければ、それだけでありがたいと思うだけで、こちらの気位が無闇に高いわけではないと思うのじゃがねえ。

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おみかんの季節