ぴょん記

きょうからしばらく雨降る日々

こぶしで殴る、言葉でなぐる

 中上健次『岬』を読み返している。外でも喧嘩っ早いけど、うちに帰ってからもなにかいってきた、あるいは、なにもいっていない女房を殴打して黙らせる男たちが出てくる短編集だ。平手で頬を張られて、あるいは拳骨で目の下を殴られて、女はその場で口を閉じるばかりではなく、以後、男に対して口にして当然のことばすら控えるようになる。男は、なにもその女のことを情欲の捌け口としてしかみていないわけでもないのだが、遅かった、どこにいっていた、あんたもしかして、ということばによって、外で味わってきたばかりの快楽の後口が渋くなるので、この先詮索しないように殴っておくのだ。もっとも、もう少々知恵の回る男なら、口先だけで黙らせるであろうなあとは思う。逆や、男同士、女同士でも、そうさね。

 

 

万葉集(四) (岩波文庫)

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