ぴょん記

きょうからしばらく雨降る日々

拾い読み文学『三人法師』/遣唐使と虎

 青空文庫で、谷崎潤一郎『三人法師』を読んだ。高野山である夜、自らの発心について偶々語ることになった、三人の僧。はじめのひとりは、足利尊氏に仕える上級武士だった。かれがあるとき貴族の屋敷で見初めた上臈女房との恋は、あるじの尊氏の後押しもあって順調であったが、あるとき、彼女は非業の死を遂げる。それがかれの出家の契機となる。ふたりめの僧は、もとは盗賊。前出の女房の衣装といのちを奪ったのは他ならぬ彼なのだが、強盗殺人を繰り返してそれを生業としていた彼ですら、もはや俗世に留まることはできないと思い詰めるまでに、その妻のある所業は、残酷なものだった。最後の僧は、もとは南朝に仕えていたが、あるじが幕府に帰順するのに納得がいかず、妻子を捨てて僧になった。修業を重ねつつ、数年ぶりにかつての所領をこっそりと訪ねると、ちょうど妻がなくなったところで、ふたりの子らはじいやに養われて心細く過ごしていた。子らへの哀憐の情に、思わず仏道を離れそうになったけれども、結局、父であることは明かさずその場を離れた、という話だった。今市子さんの『三人法師』を連想してぞくぞくしながら読んだけれど、オカルトな展開には至らなかった。

 宇治拾遺の巻第一二の二〇『遣唐使ノ子被食虎事』は、遣唐使として本朝からもろこしに渡った人がこどもと離れがたくて子を帯同して渡唐していたところ、あるとき、子が外に遊びに出てなかなか帰ってこないことがあった。その足跡をたどっていくと、大きなイヌのような動物の足跡があって、そこから先に子の足跡はなかった。遣唐使が、子は虎に喰われたと悲しんで山のほうへいくと、岩屋の入り口で虎が遣唐使の子を食べて腹を舐めながら伏せていた。そこで遣唐使は太刀でもって鯉のあたまを割るように虎のあたまを割って、次に背中を断ってとうとう虎を殺してしまった。遣唐使が食べられてしまった子の遺骸を抱えて家に戻ったので、もろこしの人は虎を退治するなんてお強いとその勇武を称えたけれど、こどもは死んでしまったのだから、いくら褒められたとしても甲斐のないことであるよ、という話だと思う。

 

応天の門 12巻: バンチコミックス

応天の門 12巻: バンチコミックス

 

  今回は、Kindleで買ってみた。道真と、基経・時平親子の運命の糸がぐいぐい絡まっていく。一方、伴大納言が出てくる度に、タイトルの応天門に関わる政変の勃発がじりじりと近付くのを感じる。

 auの特典で、バンチが読めるので、応天の門とローズベルタンは雑誌掲載時に読んでしまう。でもまとめて読むと、またよいですねえ。