ぴょん記

きょうからしばらく雨降る日々

『ある男』

 息子のひとりを病で亡くし、夫とも離婚して横浜から故郷の宮崎の山村へ戻ってきた女が、遠い伊香保温泉の旅館の次男坊と名乗る男と知り合ってやがて再婚する。新しい夫は、女の連れ子である彼女のもうひとりの息子をかわいがり、女との間にもうけた娘の父親としても申し分ない穏やかな男だったが、ある事故に遭って頓死する。ところが、弔いに伊香保からやってきた男の兄は、遺影をみて、これは自分の弟ではないと断言する。

 自分は真実のところ、いったい誰と結婚していたのか惑う女は、前の結婚の離婚調停で世話になった弁護士に依頼して、死んだ夫の素性を調べてもらう。そして浮かび上がった真相、夫の正体とは。

 

 

 

 物語の中盤、安藤サクラさんの夫の父親である柄本明さんがキーパーソンとして顔を出します。大勢の人が真実とは異なる素性を名乗る手助けをしてきたとして詐欺罪で服役している受刑者が、自分の手がけた仕掛けについてはたして正直に語るのかどうか面会に行った弁護士としてもかなり疑問が残ったかもしれないけれども、なんといっても手がかりになるものがほとんどない案件なので、選択の余地もほとんどなかったのかも。結局、明るみに出される真実は、それほど遺された人々を幸せにするものではなかったけれど、故人の尊厳はかろうじて守られた、という感じだった。

 人を追い詰めすぎないという配慮は、皆がポケットやハンドバッグにしのばせておいたほうがいい。