ぴょん記

きょうからしばらく雨降る日々

ドクダミ(十薬)やらゲンノショウコやら

 最初に、近年わたしが受けた医療処置のひとつである、ある薬剤の投与について書いておく。その薬剤は、わたしの免疫機能が強く働きすぎて、委しい機序については省略するけれども、自分の身体の組織を攻撃しているので免疫機能を抑えるために定期的に点滴で投与された。点滴投与に要する時間は約2時間。その後、経口での水分摂取に加えて生理食塩水を24時間以上かけて体内に入れて、いわゆるウォッシュアウトを行う。その薬剤はとても強いので、免疫機能のみならず身体全体を叩いてしまう。一旦身体に入れたら速やかに出て行っていただいたほうがよいので、水分を摂って尿に混ぜて排出する、らしい。

 わたしの両親は、いずれも現代の医学に対して恐怖に近い感情を抱いていたようで、鎮痛剤や睡眠導入剤のような薬剤を摂取すること/させることにかなり消極的で、痛がりですぐ不眠に陥るわたしにとっては、その点では、かなり難しい存在だった。とくに、睡眠導入剤については、わたしの二十歳前後には現在よりも入手に際しての障壁が高く、ひどく苦しんだものだった。のちに痛がりにも不眠にもきちんとした理由があり、適切な投薬で早期に対処しておいたほうがよかったとわかったときには、いろんな意味で手遅れになっていた。

 さて、現代医学に対して腰が引けているのを補完する意図があったのかどうか、とにかくドクダミの葉を乾燥させて煮出したものをよく飲まされた。家に居るときは、ほぼ毎晩300mlずつである。「毒素を排出する」効能がある、と煮出し汁がなみなみと湛えられたマグカップを差し出す母親はいうのであるが、その「毒素」が残留農薬等の自然界にないようなケミカルを意味するのか、重金属等を指すのか、自分の体内で生成された老廃物をいうのか、まったくわからない。わからないけれども、のまずにいると家内の空気が劇的に悪化するので、心を無にして、一気に飲む。それがうまいかどうかは、読者の判断に任せる。

 よくわからないのが、いま、免疫抑制剤を含むたくさんのくすりを日夜のむ身体になってからも、「くすりをたくさんのんでいるのだから」とドクダミの煎じ汁を勧められたことだ。速やかなウォッシュアウトが必要とされる冒頭に紹介したような薬剤と異なり、毎日経口でのむくすりには、有効血中濃度の問題もある。ドクダミをつかってむやみに速やかに身体の外に追い出そうとするのは、避けたい。これは、もはや家の中の雰囲気を重んじている場合ではない。

 ドクダミもドラッグストアへいけば「十薬」という漢方のくすりとして売られているので、医師に処方されたくすりを飲んでいる以上は少なくとも飲み合わせについて尋ねるべきであろう。薬剤の中には、たとえば、グレープフルーツを摂ることで効き過ぎるおそれがあるとして、グレープフルーツやその果汁を禁忌としているものもある。どの薬が、ということはわたしはブログには書かないので、各自お調べください。

 ともかく、毒消しにはドクダミ、腹が痛いときにはゲンノショウコというのは、医家が近くになく、また、診療費や薬代が高額だったころの庶民の知恵であったのだろうが、そういう知識もわたしの親の世代を最後にかつて存在した営為の記憶の世界に綴じ込まれてゆくのだろうなあ。