あと6日で食品宅配がまたやってくる。そうしたら、冷蔵庫内の食品の管理に厳重に気を配る必要もなくなり、またのんしゃらんとした態度で日を送ることもできるに違いない。
田舎の小さい人に送ったウサギのぬいぐるみと、その当人とが写った写真が送られてきた。小さい人は、まもなく2歳になる。ウサギのぬいぐるみは、小柄なその人に連れられて俯き加減で写真に収まっている。エリザベス女王の曾孫のシャーロット王女のぬいぐるみと、まあまあ親戚みたいな関係で、という能書きはいわないでおいた。王女のぬいぐるみは、耳の内側と脚の腹に小花模様の布が配されていて、そういうのもかわいいけれど、まず、色の選択肢の多いほうに引かれていった結果の選択だった。
わたしは、まるで持ち主が成長してしまったあと、顧みられることもなく納戸の隅のボール箱で幾春秋を過ごした古いぬいぐるみのようなものだ。呼吸も浅くなり、心臓もゆっくり動き、およそ1分で身体を巡るという血液の流れも、ひとより時間がかかっているような気がする。それでも、おいしいものを口にすれば仕合わせだと思い、暖かいお湯を浴びれば有り難いと感じる。目鼻を付けられたアクリルの塊であるそのウサギにも、できれば、よい瞬間がたくさんあればいいけど。
BRUTUS(ブルータス) 2020年 1月15日号 No.907 [危険な読書2020] [雑誌]
- 作者:
- 出版社/メーカー: マガジンハウス
- 発売日: 2019/12/16
- メディア: Kindle版
「伯爵夫人」の必殺技を知って以降は、気の毒な気持ちでいっぱいになりながら、後ろめたく愉しませていただきました。