ぴょん記

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『蓼喰ふ虫』

 倉橋由美子『城の中の城』に、作品名と内容少々が引用されていた谷崎潤一郎『蓼喰ふ虫』を青空文庫で読んだ。今回、『細雪』のように登場人物の話しことばが関西方言だったら読むのに時間がかかるかなと思っていたが、それは、京都訛りの「お久」ぐらいのものだったので、話ことばを頭の中で人間の声で再生することはほとんどなかった。

 有閑階級の、昭和の初年としては中年の夫妻が、妻を愛せない夫の許しを得て、妻が外の男性と情を通じ、いずれは平和的な妻の譲渡という形式をとって離婚しようとするはなしである。その妻よりも若い妾と鹿ヶ谷で侘び住まいをしている妻の父親という者も立ち交じり、世間体よりもそれぞれの感情を重んじる、ある意味、正直な人たち*1。作家自身のあれこれも連想せざるを得ないけれども、あくまで小説は独立したものとして読み、だけど、これ、新聞小説だったのだなあ。

 

蓼喰う虫

蓼喰う虫

 

 

 

 

 

*1:たぶん、小市民の間で「醜聞」と噂されることはあっても、その一時の評判のせいで生活の資が減ったりはしない、ブルジョワジーであることもその正直さの重要な理由のひとつといえるのだろう。