ぴょん記

きょうからしばらく雨降る日々

わたしとヘルプマーク

 数年前の夏、自宅最寄りではない、都営地下鉄のある駅に、いわゆるヘルプマークを貰いに行った。外出といえば、おもにD大学医学部附属病院に行って帰るだけだったが、ふとしたことから負担する医療費が倍になり、通院の足をタクシーからバスに切り替えた。都バスには、1日500円で都バスが乗り放題になる一日乗車券というのがあり、その日いちばんはじめに乗るバスで、一日乗車券にしてほしい旨を運転手さんに述べれば、SuicaをはじめとするIC乗車券がそのまま一日乗車券になる*1。これを使ってバスを乗り継ぎ、D大病院へ通っていた。

 ところで、バスに乗るとひとつ困ったことがある。わたしは、筋肉がへたる病いで足が弱い。バスや電車の中ではなるべく座っていたい。足元の不安定な車内で、吊り革やバーなどを支えにしてまっすぐ佇立しつづけることは難しい。そこで、座席を占めてなるべく小さくなって、できるかぎり身を縮めて座っている。そこへ、お年寄り、だいたいはお婆さんが、お顔をわたしのほうへ、しかも極めて近くまで寄せてこられるのだ。無言で、ただし、意図するところは明白である。席を譲れ、というのだ。

 けっして、健康体なのに横着をして、ご年配の方に席を譲らないわけではない。途中でスターバックスに寄るくらい元気な朝がないわけではないけれど、たいていは、わたしが病院に近づくのではなく、病院のほうからうちの隣に移動してくれないかななどと考えながらとかく憂鬱な気分でとぼとぼ肩を落としての通院である。そこが優先席であろうと普通の席であろうと空席があれば、わたしは、たいてい座る。そばに、もっと足元の不確かな人が来ない限りは。

 ヘルプマークを受け取ってからは、バスの席につくやいなや、ヘルプマークをバッグから目立つように垂らす習慣が身に付いた。そうすると、さすがに、見知らぬお婆さんが、頬を擦り付けるようにして、席を立つのを慫慂するようなことも少なくなった。

 このような効用が、ヘルプマークにはある。

 ところで、赤十字のマーク、日本赤十字社「社員」のうちの表札には、白木に赤で立派なクロスが彫り込まれていたなあ。きっと一定額以上の醵出を行った「社員」のうちに配ったのではないだろうか。

 

 

*1:現金で一日乗車券を発券してもらうこともできる。いまもおそらく。