電車やバスで足元の覚束ない感じの方に席をお譲りするとき、それが男性であれば、「おじさま、こちら、どうぞ」と少し令嬢風に装って声を掛けるのですが、70代以上の女性には、「奥さん、奥さん、よかったら、ここ、ここ」と、義経を演じたときの菅田将暉くんを自分の中に5パーセント程度取り込んでお誘いします。
まあ、いまとなってはヘルプマーク付きのバッグをわかりやすく電車やバスの車中で晒しているわたしが席を譲る相手は、杖をついた方ぐらいなものですが。
たぶん、戦争に負けた直後ぐらいの日本では、30歳を過ぎた女性は、年下から「おばさん」と呼びかけられてもそれは普通のことだと受け流していたと思います。「おばさん」が、嬉しくない色彩を色濃く帯びるようになったのは、若くない女性は若い女性よりも著しく価値が低いというもののみかたが定着したからでしょうか。
わたしは、「おばさん」はまあよいけど、「ババア」は自分の呼ばれ方としてはありえんな。すごく限局された状況下でなければ、おそらく返事をすることは、ない。
