わたしの寝る部屋の脇には、ほかの住戸の住人も通る共用廊下がある。深夜、そこを通行するのは、ほんとうに数戸の、そしてまた数人しかいないのだが、時折興味深い呟きを個人で、あるいはおそらく夫妻相互で漏らすことがある。そのひとつが、「奥の棚のウィスキー、まだ半分近くあったよな。」という独り言であり、もうひとつが。「今日は痺れるまで飲みたい。」という囁きないし述懐である。早い話が、酒が飲みたい人が自宅まで辛抱できずに飲酒の意思表明をするのだ。それを20時半とか23時とか、半分眠った状態で聞いて目を覚ます。寝殿造とか御殿造の広くて暗い廊下を火の番かなにかで夜の間に歩く係の人が同役の朋輩などに、「わたしの局にお下がりの唐果物があと少しあるからこれ終わったら食べて仮眠しましょう。」とか気安く囁き合う空気が、不意に自分の枕元に紛れ込んでくるようなものだ。
ウィスキー残っているといいね、とか、おい痺れるほど飲んでもいいけど今日は水曜だけど?とか、頭の中で合いの手を入れる。
さて、このごろ寝る前に刑事モースシリーズを観ている。これが1本90分程度あるので、最初の10分ほどをじっくり観て、次の15分も熱心に聴いて(日本語吹替版なので、安心して。)、そして寝入ってしまってその間に話が終わり、自動で次の話が始まってしまっていたりする。