ぴょん記

きょうからしばらく雨降る日々

『モスクワの伯爵』

 ふしぎなTVシリーズだった、『モスクワの伯爵』。ポリティカルコレクトネスの観点かなにかで、とりどりの肌の色の俳優さんが出演しているけれども、それはそれでいいと思う。褐色の肌のロシア貴族社会の住人としては、すぐにプーシキンを思い出すけれども。

 革命後、あえて祖国に留まった伯爵に下された革命政府の判断は、ホテルメトロポルでの永世蟄居。与えられた屋根裏部屋で朽ち果てていくやと思われた彼だったが、ともかく好人物でなおかつ頭がよかったので、なぜか給仕長としてホテルで働き、そこで家族と呼べる人々に巡り会い、豊かな人生を紡いでいく。第二次世界大戦後、掌中の珠のように愛していた少女の未来のために伯爵はすべてを投げ出すことになる。その選択の正しさ、尊さに寸分の揺らぎも感じさせない見事なドラマの筋立てこそがこのシリーズの最大の魔法だった。