ぴょん記

きょうからしばらく雨降る日々

あえてお礼をいわないという選択

 ツイッターでもブルースカイでもないSNSで、今朝読んだ投稿に、路上でひっくり返った電動車いすから転がり落ちたご年配を泥だらけになって救助した人や、駐車場で危急を告げる親子連れのために救急車を誘導した人が、スーツが汚れるとか約束に遅刻するなどの不利益を被りつつ、なぜか当事者らからは一言もお礼をいわれなかった(でも徳が積めたので、それは甘受する、と当人らはいう。)というエピソードを読んだ。

 この人たちの行為は、たしかに積善の行いといえるだろう。そうはいうものの、せめてスーツのクリーニング代ぐらいほしいだろうし、たとえそうでなくともせめて最大限のお礼をいわれてしかるべき状況だと思う。

 本人は無理でも誰か身内が、一旦落ち着いたあとで控えた連絡先を頼りに頭を下げに行くという余裕はなかったのだろうか。もとよりこれらは、お礼目当ての善行ではない。とはいえ、見知らぬ人のための親切がまったく報われないのがまさか常態となれば、なんだか索漠としたつまらない世の中になりそうですね。

 直接お礼についての話ではないけれど、善意ってどこまでってエピソードで、もしかしたら以前に書いたことがあるかもしれないことを。

 あるとき、保育園で、Pちゃんのお母さんがPちゃんを迎えにいった際、保母さんから「Qちゃんのおばあちゃんから伺っていますが、では、おふたりともお気を付けてお連れください。」と言われた。その日の朝、P母は、Q祖母から、「どうしても今夜はQの世話ができないから、お宅で一晩預かってください。」と園の門前で突然頼まれ、それまでQちゃんの家とは一切の交流がなかったこともあり、「預かりません。駄目です。もう一回いいます、預かりません。」と、きっぱりと断っていた。

 そういうわけですから無理でございます、とP母は、我が子であるPのみを連れて帰ろうとした。するとQちゃんもチャイルドシートが1つしかないP母の軽自動車に乗り込もうとする。そして、Qちゃんの持ち物は、ふつうの通園バッグのみで、お泊まりの用意もなにもしていない。まるで、現代のホラーだ。

 そして、ここからがホラーの第二段階で、Pちゃんの家ではなぜかQちゃんを一晩泊めてごはんを食べさせ、お風呂に入れて、Pちゃんの着替えを着せて寝かしつけてしまう。保育園の保母さん園長さん、P母の言い分にまったく耳を傾けずに、「Q祖母さんはたしかにP母さんがお引き受けになったとおっしゃいましたよ?」で押し通したし、なぜかQちゃんとPちゃんの間に、「今夜はお泊まり会!」という機運が過剰なまでに醸成されていたので、そのまま軽自動車のシートベルトでぎゅうぎゅうに抑えて家に連れ帰ってしまったのだという。そして、P母には、Q祖母の連絡先など知らされていない。

 もう相当以前の話で(Pちゃんも成人した。)、しかも伝聞だから不確かな部分があるかと思う。ただ、それを聞いたとき、同じ園に通う子供の家庭というだけで孫のQちゃんを一晩押しつけるように預けたQ祖母に、どんな事情があるにせよと底なしの恐怖を抱いたことだけは鮮明に覚えている。

 なお、最寄りの警察署にQちゃんを連れて行って、事情を話して預けてきて、あとは警察の人に任せるというのが、わたしが現在の頭で考える最良のプランだ。親切とか優しさとか、そういう問題ではなく、こどもは急に具合が悪くなるし怪我をしやすいしで、Qちゃんを含む皆の生命と身体の安全のためには、預からないというのが唯一の選択だ。

 翌日の夕方、保育園にお迎えにいったとき、P母と顔を合わせたQ祖母、「あら、きのうはどうも」とだけ言ったそうな。これって、お礼をいったことになるのかな。

 それにしても、その保育園は、現代だったら、もうありえないな。

 

夏の間もだいたいコーヒーは熱々で