ぴょん記

お暑うございます。

『その夜の侍』

 真夏の夕方、前方不注視で運転していたトラックにぶつかって、自転車の主婦が倒れる。トラックの運転手と助手席にいた同僚は事故現場から逃走する。救護義務違反と通報義務違反と。正確な死亡時点は確定されないが、とにかく早い時期に被害者は亡くなっていた。逮捕された運転手が実刑を宣告されて、服役し、刑務所から出てきてから、映画の「現在」は、始まる。

 事故で亡くなった主婦の夫は、小さな町工場の主。死ぬ前にスーパーマーケットから自宅に掛けてきた主婦の留守番音声をたぶん何千回も再生している。作業着のポケットから亡妻の下着が現れたりするけれども、それは深く問わないでおこう。この工場主が堺雅人。中学か高校かの教諭をしている亡妻の兄が、新井浩文。2012年の作品なので。

 なぜか開き直って亡妻の兄にゆすりをかける運転手で元受刑者が山田孝之。彼を居候させる助手席にいた同僚が、綾野剛。もう一回書きます、綾野剛です。

 工場主は、5回目の妻の命日に、『運転手を殺害する』のではないかと、作中人物にも観客にも予想されている。それを暗示するのがレジ袋の中でいつのまにか巻かれたタオルが外れて袋を切り裂いて路上に落ちる包丁と、一緒に転がったトマトの赤だ。工場主と、でんでんをはじめとする工員、亡妻の兄とのコミュニケーションが成立しているかどうかも怪しいのだ。一方、運転手のほうのエゴ、その欲望を貫徹させるための自信。低気圧がまわりの熱を吸い込んでみるまに巨大な台風に成長していくように、運転手は、工場主の訪れを待ち受けるのだが。