この映画のモデルになった、愛知県知多半島付近の島について、わたしの知識は専らウェブ上のノンフィクションかノンフィックション風フィックションで得られたものである。いわく、愛知県や三重県のおよそメジャーな漁どの港からも小さな船で小一時間はかかるという、ある島に置屋がたくさんあり、その置屋の個室で、「自由恋愛」の名目で客と性的関係を結ぶ接客業の人が稼働しているというものだ。遊里というものは、令和の日本にもいくつもあるけれども、わざわざ船に揺られなければ、まず置屋に辿り着けないという場所は珍しい。瀬戸内には風待ちの船乗りたちのための花街があったというが、この島の始まりはなんだったのだろう。
主人公の置屋の次男坊は、山田孝之である。長男の経営者が、佐藤二朗。先頃、大河ドラマの中で滅んでしまった比企能員。体の弱い末娘が仲里依紗。その置屋で、4人の接客婦が働いている。作中では、このそれぞれの接客婦の境遇や生い立ち、借金のあるなしやヒモの存否については、殆ど触れられていない。哀れにも苦界に身を沈めるしかなかった家族思いの娘ではなく、理不尽な二朗の圧迫を受けながらも、孝之のサービスを受けつつ、里依紗に圧を掛ける、たくましい稼ぎ手たちなのである。
この映画で描きたかったのは、どちらかというと、売春婦の生態の模写というよりは、この置屋の家族史なのだろうと思う。