ぴょん記

きょうからしばらく雨降る日々

『シルミド』(2003)

 大韓民国大統領府の建物は、その美しい瓦から青瓦台と呼ばれるが、その青瓦台を目指して北朝鮮の特殊部隊が国境を越えて侵入する事件が、1968年に起きた。攻撃は未然に阻止されたものの、侵攻の責任を問われた韓国の中央情報部はただちに報復を企図し、死刑囚31名による部隊を結成し、刑の執行の免除及び作戦成功後の優遇とひきかえに、平壌への潜入と主席邸の破壊、及び主席の殺害を約束させる。

 31名は、指導を務める部隊とともに、仁川に近い、シルミド(実尾島)という無人島に缶詰になり、7名の死亡者を出す苛酷な訓練に3年間耐え抜いて、いざ平壌に向けて出発するのだが、そこで情報部から一本の電話が掛かり……。

 実際には、この決死隊に採用されたのは、死刑囚ではなく、高額の報酬で集められた民間人であったとか、あとで日本版ウィキペディアで確認した限りでは、映画内の脚色がやや過剰な部分がなきにしもあらずだった。とはいえ、北へ国境を越えて20回も潜入した責任者の空軍将校のこころの動きがなんとも複雑で、それが映画全体に独特の陰影を添えている。主人公格以外の訓練生たちが、死刑に値するいかなる罪を犯したのか言及されていないのは、あっさりしてかえってよかったかもしれない。

 北へ逃れた父親をもつ主人公格が、「連座制」の適用により、本来犯した罪の刑に加重されて死刑を宣告されるという冒頭のシーンは、さすがにいまから数えて55年前の世界なのだと考えさせられた。