ぴょん記

きょうからしばらく雨降る日々

『PLAN 75』を観た

 Amazonプライムで。主演の倍賞千恵子の演技は、もちろん素晴らしい。ご本人自身の加齢による肉体の変化をうまく取り込みつつ、78歳単居で職探しをする気丈な女性、言い方を変えれば、自分を励まして職探しをしなければ明日の住まいも覚束ない、「PLAN 75」がまさにターゲットにする社会階層に属する日本人を演じている。

 この「PLAN 75」とは、政府運営の、あるいは認可を受けた民間企業が運営する施設で行われる、人工的な死の提供を許す法律に基づくプロジェクトの名称。これは、もとよりSF設定である。

 磯村勇斗演じる公務員は、生活保護受付窓口の近くや、炊き出し事業のそばで「PLAN 75」の幟を掲げ、受付業務を行う。あるとき、炊き出しの列に並んだ初老の男が、疎遠になった叔父であることに気づく。

 心臓病の5歳の娘を故郷の村に残して、彼女にとって異国である日本の介護施設で老人の世話をする若い女性は、手取りが月12万円の現在の仕事よりも、もっとよい仕事があるよといわれて、新しい職場に移る。

 倍賞千恵子演ずる主人公と関わることになった別の女性、これは、日本人の女性は、彼女の人生を詳しく知ることになる。

 大きな歯車がゆっくり動くとき、それにかみ合わされた小さな歯車はせわしく回る。この政策を選ぶ前から、国家と社会のマインドはきっと以前とは大きく変わってきていたのだろうが、法案が国会で可決された日、決定的に大きな階段をひとつ滑り降りたといえる。

 まだ受胎されてもいない新しい命のために、わたしはいまある命を早めに終える、と、映画の中でみたある人物の瞳がわたしに訴えかけていた、というまぼろし