ぴょん記

きょうからしばらく雨降る日々

『焼肉ドラゴン』『虎に翼』

 大日本帝国の臣民として戦争に参加させられ、左腕を失い、のちに故国の家族すべて亡くした男と、済州島から命からがら逃げてきた女が、再婚し、連れ子の娘3人に加えてやがて夫婦の間の息子も生まれた。1970年大阪万博の前年、大阪の空港の滑走路近くの国有地にその集落はあった。主人の名前は龍吉、ゆえに家族が経営するホルモン焼屋は、常連たちからいつしか「焼肉ドラゴン」と呼ばれるようになった。

 龍吉の連れ子の娘が、真木よう子さん、井上真央さん、母の英順の娘が桜庭ななみさんという、とんでもない美人姉妹だ。井上真央さんと一旦は結婚しながら、それでも真木よう子さんを諦めきれない幼なじみに大泉洋さん。根岸季衣演じるキャバレーのママの夫だったけれども、桜庭ななみさんと結婚するために根岸さんと離婚するマネージャーに大谷亮平さん*1

 戦後すぐから足掛け27年間営業を続けた焼肉ドラゴンがその終焉を迎えるとき、家族それぞれが新しい生活に向けて散り散りになる。元手のほとんどないところから裸一貫で築き上げてきたものを理不尽に奪われる龍吉の叫びや英順の涙(ふだんは英順かあさんのほうがずっと攻撃的なのだが。)は、あえて抑え気味であるところがかえって心に強く迫る。

 龍吉は、焼肉ドラゴンの店舗兼住居の敷地を「醤油屋の佐藤さん」から購入したと再三主張しているけれども、集落を「整理」して公園を作りたい市役所の係員は、「国有地は売り買いできませんよ。」「何なら明日にでも強制執行しますよ(できるのか?)。」「(立退補償金は)盗人に追銭、といっている人もいます。」などと尤もなことから一種の無茶、果ては暴言を繰り出して立退きを迫る。最後のは、法律上は不法占拠している住民に立退補償金という名の損失補償を行うのは、本来ならば必要のない公金の支出であるという意味だろう。

 連続テレビ小説『虎に翼』で、日本人の裁判官と結婚して東京に暮らす朝鮮民族出身の女性が、周囲にはその出自を隠して日本人として振る舞う描写があった。彼女とその夫を庇護する上司の裁判官は、当時の日本社会に厳然と存在する民族差別ゆえに、彼女をそっとしてやれとかつてともに法律を学んだ主人公にいう。

 とても扱いの難しい、デリケートな事象であるけれども、これを脚本に織り込んだ吉田さんやそれを支えたスタッフの皆さんは、とてもよいことをしてくださったとその勇気を讃えたい。日本が李氏朝鮮の代わりに朝鮮半島統治権を布いた1910年から1945年までの35年間、それから現在に至るまでの79年間、かつて同じ国民として平等な扱いだったのか、そしていま在日の朝鮮人や韓国人と、日本に帰化した朝鮮半島にルーツをもつ人本人や子孫、日本人として対等に暮らしているのか、NHKとしてドラマの中とはいえ取り上げるのは、かなり珍しいのではなかろうか。

 わたしたちの世代も考えたいし、上の世代の人も若い世代の人も、お隣の国々に由来する血の流れる人と日本の人との関わりについて、もっと情報が、より正確な情報がたくさんほしいのではないかと思う。

 

 

 

 

*1:異世界居酒屋のぶ』の大将。